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第295話 

遠藤西也は目の前の若子をじっと見つめ、胸の奥にふっと柔らかい感情が湧き上がってくるのを感じた。

今朝までは、彼女に対して少しばかりの不満を抱いていた。そして、その私情が原因で部下にまで怒りをぶつけてしまったのだ。

だが、今この瞬間、彼の中の怒りや苛立ちはすべて消えてしまった。

たとえ、先ほどのプロジェクトの件であれ、もう何一つ腹立たしい気持ちは残っていなかった。

それどころか、満たされた気持ちが心の中に広がっていくのを感じていた。

彼の心の中にある「満足感」は、階層のように分かれている。

最初の層には小さな空の袋があり、それが満たされると次の層が現れる。

そして第二層には、さらに大きな空の袋が待っているのだ。

彼はその最初の袋がもう満たされ、第二層の袋へと進んだことを実感した。

若子に対して彼が最初に望んだのは、ささやかなものでしかなかった。彼女が自分に微笑んでくれること、あるいは優しい言葉をかけてくれること、それだけで十分だと思っていたのだ。

だが、今日の彼女の言葉から、彼女が自分を本気で心配してくれていたことを知った瞬間、最初の袋は一気に満たされた。

そして第二層の大きな袋が姿を現し、そこには大きな空虚感が広がっていた。

彼はもっと欲しいと感じ始めた。

彼の心の第一層の袋には、彼女の気遣いがたっぷりと詰まり、それが彼に満足感をもたらしていた。

だが、第二層の袋を満たすためには、もっと深い親密さが必要だと感じていた。

そして、第三層の満足は、今朝の夢で見たような、手の届かないような理想の情景でしか満たされないだろう。

そんな瞬間を夢見るものの、焦りは禁物だと分かっているからこそ、この三層を段階的に満たしていこうと決めていたのだ。

その第一層は、彼女のさりげない気遣いによって、予想以上に簡単に満たされたのだった。

彼がぼんやりと考えに耽っているのを見て、若子は慌てて「私、ちょっとおかしかったかしら?あなたを呪ってるわけじゃないのよ。ただの夢でしかないんだから、気にしないでね。こうして無事でいるのを見て、安心しただけよ」と言った。

目の前には、若子の柔らかで清純な顔が映っていた。まるで厚いフィルターをかけたかのように、どこから見ても完璧で、欠点が一つもないように思える。

耳元に響くのは、彼女の優しく繊細な声。言葉一つ一つが美しい
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